論から言えば:そうでもない。非常に限定的なケースを除いて(後述する)、サブドメインを使うこと自体が配信に大きな差を生むわけではない。むしろ、メール送信のためにわざわざサブドメインを分けると、管理コストが増えるだけかもしれない。
ただ一見もっともらしく聞こえるよね? メール認証の仕組みを実際に知っていると、どうもサブドメインを売りたい人の営業トークに聞こえてくる。
だから、ルートドメインから送って、DMARCを正しく設定すればいい。それで十分だ。
GoogleのGmail送信者ガイドラインでは、バルク送信者に対して要求される認証は SPF、DKIM、DMARC の3つだ。サブドメインの使用はどこにも要求されていない。
むしろGoogleは、プロモーションメールの例としてルートドメインのアドレスを示している。
[email protected][email protected][email protected]いずれもルートドメインだ。[email protected] ではない。
さらにGoogleは、「受信者の連絡先に登録されているアドレスから送られたメールは、スパムとしてマークされる可能性が低い」とも述べている。アドレスをサブドメインに分散させていては、受信者に覚えてもらうことすら難しくなる。
YahooのSender Hubも、バルク送信者に対してSPF、DKIM、DMARCを要求している。サブドメインの使用は義務ではない。
Yahooが推奨する分離方法は 「IPアドレスまたはDKIMドメインによる分離」 である。バルクメールとトランザクションメールを同じIPから送るな、という話であって、サブドメインを使えという話ではない。
MicrosoftのDefenderドキュメントでサブドメインが言及されるのは、自分の管理下にない第三者のバルクメールサービスを使う場合 に限られる。信頼できないベンダーの影響を限定するための損害管理策であり、普遍的なベストプラクティスではない。
またMicrosoftは、サブドメイン推進者があまり言及しない重要な事実にも触れている。「DMARCのTXTレコードは、すべてのサブドメインを自動的にカバーする」のだ。ルートドメインのDMARCポリシーは、すでにサブドメインも保護している。保護を得るためにサブドメインに身を隠す必要はない。
RFC 7489は、DMARCの目的をこう定義している。
「DMARCは、認証チェックに失敗したメッセージに対して、無処理から配信変更、メッセージの拒否まで、段階的に厳格な取り扱いを可能にするポリシー配布のメカニズムである。」
これが実際の評価保護メカニズムである。サブドメインではない。DMARCは、受信サーバーに対して、自分のドメインを名乗る未認証メッセージを拒否するよう指示する。SPFやDKIMを通過できない偽装メールは、GmailやYahooやOutlookに届かない。
DMARC.orgの言い方はもっと明快だ。「未認証メッセージを拒否する」ための仕組みである、と。
サブドメイン推進派の主張は、二本の柱に支えられている。どちらも怪しい。
柱その1:「評価の分離」
marketing.example.com の評価が悪化しても、メインの example.com は無傷だ——という理論だ。これが成り立つのは、受信プロバイダーがサブドメインを完全に別々の評価エンティティとして扱う場合に限られる。しかし実際はそうではない。
この理論の問題点はこうだ。RFC 7489はDMARCの仕様として、すべてのサブドメインが属する「組織ドメイン(Organizational Domain)」という概念を定義している。Microsoftのドキュメントでも、ルートドメインのDMARCポリシーが「すべてのサブドメインを自動的にカバーする」ことを確認している。認証とポリシーは下方向へ継承され、横方向には分離されない。主要なプロバイダーのいずれも、サブドメインを完全に独立した評価単位として扱う——とは公開文書で述べていない。サブドメインを病院の隔離病棟のようにきれいに封じ込められる——というのは、最良の場合で幻想であり、最悪の場合で悪夢だ。
柱その2:「送信目的の透明性」
受信プロバイダーはサブドメインを見てメールを適切なフォルダに仕分けている——という主張だが、これを裏付ける公開情報はゼロである。Gmailの公式文書ですら、プロモーションも含めたすべてのカテゴリでルートドメインのアドレスを例示している。もしサブドメインが実際にシグナルになっているなら、Googleはそう書くだろう。
実際に受信プロバイダーがメールのカテゴリを判断するのは、ユーザーのエンゲージメント、コンテンツの内容、List-Unsubscribe ヘッダーの有無などであり、ドメインにドットが入っているかどうかではない。
ドメインの評価を守りたいなら、以下のチェックリストが重要だ。
p=reject で設定する — 認証に失敗した偽装メールを受信サーバーに拒否させる。これがGoogle、Yahoo、Microsoftがバルク送信者に要求しているものであり、そのどこにもサブドメインの使用義務はない。
ただし最も重要なのは、いつも不思議に思うのだが人々が見落としがちなこの点だ:読みたくないメールを送らないこと。マーケティングメールの開封率が10%しかないのに、どのサブドメインから送っているかを気にするのは、最後に気にすべきことだ。
AIとマーケティングと日本に関する月間メール「Kafkai Insights」を配信している。平均開封率52.8%、最高開封率66.6%(n=1550)。良いメールの具体例を知りたい人は、こちらから登録 できる。
サブドメインから送信するのが正当化されるのは、メール基盤の管理を完全に信用していない第三者サービスに委託し、万一の事故の影響範囲を限定したい場合だけだ。それすら損害管理策であってベストプラクティスではない。ベストプラクティスは相変わらずDMARCである。
自分でメールサーバーを管理している場合、あるいは管理権限を保持したまま信頼できるプロバイダーを使っている場合、ルートドメインから送る方がシンプルで、ブランド認知の観点からも優れている。
マーケティングメールをサブドメインから送ることは「ベストプラクティス」ではない。認証設定を疎かにするための回避策に過ぎない。本当のベストプラクティス——2024年2月以降、すべての主要受信プロバイダーが義務化しているもの——は、ルートドメインでのSPF+DKIM+DMARC の設定であり、偽装者を拒否できる強いポリシーを持つこと、そして読者が読みたいメールを送ることである。
サブドメインで評価を守れると言われたら、相手のDMARCポリシーと開封率を尋ねてみるといい。どちらもない、あるいは知らないと言われたら、実際に何も分かっていないのはどちらか、はっきりするだろう。