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あなたのメールを届ける人たち

メールは画面から相手の受信箱へ一瞬で届くわけではありません。4人の担当者がそれぞれの仕事をこなして、はじめてメールは届きます。郵便局長さんが一人ずつ紹介します。


Actors & Email: A Scene from Email History

ずいぶん昔のことです。郵便局に入った初日の朝、私は新人がよくやる勘違いをしました。手紙を受け取って、正しい箱に入れる。それだけの仕事だろう、と思ったのです。先輩の局員さんは静かに笑って、こう言いました。「その手紙が届くまでに、少なくとも4人の手を通るんだよ。まずはその4人を覚えなさい」

その通りでした。そして、メールもまったく同じなのです。

「送信」ボタンを押したメールは、あなたの画面から相手の受信箱へ瞬間移動するわけではありません。4人の担当者を順番に通って、はじめて届きます。この4人にはそれぞれ名前があります。MUA、MSA、MTA、MDA。技術の記事ではよく見かける略語ですが、並べられると目が回りますよね。

私の郵便局にいたスタッフを紹介するつもりで、一人ずつお話ししましょう。


窓口の局員さん ―MUA(Mail User Agent)―

MUAは、あなたが直接やり取りする相手です。郵便局でいえば、窓口に座っている局員さん。手紙を預かり、届いた手紙を渡してくれる人です。

メールの世界では、MUAとはあなたが使っているメールソフトのことです。日本では「メーラー」とも呼ばれますね。長年愛されているBecky! Internet Mail、秀丸エディタでおなじみサイトー企画の秀丸メール、無料で使えるThunderbird、iPhoneの標準メールアプリ、そしてブラウザで開くYahoo!メールやGmail。メールを書いたり、読んだり、整理したりするプログラムは、すべてMUAです。

メッセージを書いて「送信」を押す。それは窓口の局員さんに手紙を渡す瞬間です。受信箱を開いてメッセージを読む。それは局員さんから手紙を受け取る瞬間です。

MUA自身は配達をしません。あなたと郵便の仕組みをつなぐ、親しみやすい窓口なのです。


受付の仕分け係 ―MSA(Mail Submission Agent)―

窓口の奥には、普段あまり目にしない係がいます。受付の仕分け係です。窓口の局員さんが手紙を預かると、まずこの人に渡します。仕分け係は、手紙を先へ進める前にいくつか確認します。

差出人の住所は書いてあるか? 切手は正しく貼ってあるか? この人はこの住所から手紙を出す権限があるか?

メールの世界では、MSAはあなたのメールソフトから送信メッセージを受け取るサーバーです。さくらインターネットやXSERVERでメールを設定したことがある方なら、「送信サーバー(SMTP)」の欄にサーバー名とポート587番を入力したことがあるかもしれません。あのポート587番が、仕分け係の席の番号だと思ってください。MSAはあなたがちゃんとログインしているか、メッセージの形式が正しいか、使おうとしている送信元アドレスの権限があるかを確認します。

何か問題があれば、MSAはメッセージを差し戻します。すべて問題なければ、郵便局のもっと奥へメッセージを送ります。


長距離トラックの運転手 ―MTA(Mail Transfer Agent)―

ここで手紙はあなたの地元の郵便局を離れます。MTAはトラックの運転手です。郵便局と郵便局の間を走り、時には町の向こうへ、時には遠い県の向こうまで手紙を運びます。

メールの世界では、MTAはあなたのメッセージをインターネットを通じて相手のメールサーバーまで届けるサーバー(あるいは一連のサーバー群)です。裏側ではPostfixやsendmailといったソフトウェアが働いています。さくらインターネットやXSERVER、OCNなど、日本のレンタルサーバーやプロバイダの中でも、このMTAが黙々とメールを運んでいます。MTAは相手の「郵便局」がどこにあるかを、MXレコードを調べて確認します。MXレコードとは、郵便局の建物に掲げてある住所表示のようなものです。

旅が短いこともあります。あなたと相手が同じメールサービスを使っていれば、MTAは廊下を歩いて手紙を渡すだけです。長旅になることもあります。複数のMTAを経由して、地域の仕分けセンターを乗り継ぐように進んでいきます。

宛先が存在しなければ、MTAは「配達不能」の通知をつけて手紙を差し戻します。昔、私たちは「宛所不明」のスタンプを押して返送していました。MTAがやっているのも、まさにそれです。


地元の配達員さん ―MDA(Mail Delivery Agent)―

手紙が相手の郵便局に届きました。あとは正しい郵便受けまで届ける人が必要です。それがMDA、地元の配達員さんです。

MDAはMTAからメッセージを受け取り、相手のメールボックスに入れます。メッセージが読まれるのを待つ保管場所です。その途中で、MDAは仕分けもします。これは受信箱へ、あれは迷惑メールっぽいからスパムフォルダへ、というように。

DovecotやProcmailといったソフトウェアがこの仕事を担当します。あなたがBecky!やThunderbirdで受信ボタンを押したとき、サーバー側でメールを準備して渡してくれるのがこの配達員さんです。あなたがMDAと直接やり取りすることはありません。配達員さんが来るところを見ることはめったにない。ただ、郵便受けに手紙が入っている。それと同じです。


メール配達の全体像

全部つなげてみましょう。あなたがBecky!で友人にメールを送る場合です。

  1. あなたがBecky!(MUA ―窓口の局員さん)でメッセージを書きます。
  2. Becky!がメッセージをMSA(受付の仕分け係)に渡します。MSAはあなたの認証情報とメッセージの形式を確認します。
  3. MSAがMTA(長距離トラックの運転手)にメッセージを渡します。MTAは友人のメールサーバーの場所を調べ、そこまでメッセージを届けます。
  4. 友人側のMTAがメッセージを受け取り、MDA(地元の配達員さん)に渡します。MDAがメッセージを友人のメールボックスに届けます。
  5. 友人がYahoo!メールやGmail(MUA ―また窓口の局員さん)を開いて、あなたのメッセージを読みます。

4人の担当者。1通の手紙。それぞれが自分の仕事をこなし、力を合わせてメッセージを届けるのです。


なぜこれを知っておくといいのか

メールを使うために、この略語を暗記する必要はありません。ほとんどの場合、この4人は静かに、きちんと仕事をしてくれます。

ただ、何か問題が起きたとき ―メールが戻ってきた、迷惑メールに入ってしまった、さくらインターネットやXSERVERで新しいメール設定がうまくいかない― 誰が何をしているか知っていると、どこで問題が起きているかがわかります。メールソフトの問題なのか? メッセージを受け付けるサーバーの問題なのか? サーバー間の経路の問題なのか? 受信箱への配達の問題なのか?

窓口の局員さんが手紙をなくしたのか、トラックが途中で故障したのか。結果は同じ ―手紙が届かない― でも、対処はまったく違います。

KaiMailをお使いの方には、特に役立つ知識です。KaiMailがメールを転送するとき、KaiMailはこの流れの中で追加のMTAとして働いています。地域の中継局のようなものです。あなた宛ての手紙を受け取り、あなたの本当の受信箱へ送り届ける。この流れを理解していると、転送メールでARC(チェーン・オブ・カストディ)ヘッダーや認証が大切な理由もわかってきます。


急がなくて大丈夫です。ゆっくり読んでください。次にエラーメッセージやサポート記事で「MTA」という文字を見かけたら、もうおわかりですね。あれはトラックの運転手さんのこと。そして今は、残りの仲間たちのことも知っています。